ポスターの少女は映画に出演していない——。
スタジオジブリの人気アニメ『となりのトトロ』は宮崎駿さんが脚本・原作・監督を務めたファンタジー映画。
4歳のメイと、12歳のサツキの姉妹が不思議な生き物・トトロに出会います。
1988年4月の劇場公開から32年が経過したが、いまだに根強い人気を誇り、地上波での再放送は今までに17回行われています。
「となりのトトロ」の劇場公開時のポスターやパンフレットには、秘密が隠されているのをご存じでしょうか。
■ポスターに隠された秘密とは?
ポスターに描かれているのは、「稲荷前」と書かれたバス停の前の様子です。葉っぱを頭に乗せたトトロの隣に、赤い傘を差してなが靴を履いた二つ結びの少女が立っています。
この少女は劇中に登場するメイともサツキとも、微妙に姿が違います。顔はメイに似ていますが、身長と年齢はメイよりも高そうです。服装はオレンジ色のスカートで、こちらは劇中でサツキが着ているものです。
番組紹介でよく使われるこの写真、少女について特に気に留めない人も多いと思います。
この少女は、一体誰なのでしょうか…?
■もともと主人公の女の子は1人だけだった
写真をよくみてみると、サツキとメイの特徴を合わせた女の子だということがわかります。
なぜ2人の少女を一人にしたのでしょうか?
『となりのトトロ』の原型となったのは、1975年に宮崎監督が描いた3枚のスケッチだそうです。このときすでに、バス停で父親を待つ少女と、頭の上に葉っぱを載せた謎の生き物が描かれていました。実は、初めは絵本にするつもりで、主人公の少女は1人だったそうです。
その後、1986年末から映画版『となりのトトロ』の制作が本格的に始まると、宮崎監督は主人公の少女を2人の姉妹に設定変更しました。その理由は、当時同時上映された『火垂るの墓』(高畑勲監督)の上映時間が予定より長かったため、負けず嫌いの宮崎駿監督が『となりのトトロ』の上映時間を伸ばそうとしたためです。
「ジブリの教科書3 となりのトトロ」(文春ジブリ文庫)の中で、製作委員会のメンバーだった鈴木敏夫さんは次のように述べています。
「『となりのトトロ』は本来、女の子とオバケの交流で、その女の子は一人だったんですが、高畑さんへの対抗心に燃えた宮さんは「映画を長くするいい方法はないかな」と言い出して、それで一人の女の子を姉妹にすることを自ら思いつくんです。サツキとメイは、宮崎駿の負けず嫌いの性格から誕生したのです」
■「サツキとメイの二人がトトロと並ぶのは、どうしても違う」
1987年夏ごろに『となりのトトロ』のポスターの原画を宮崎監督が描きました。
実は、ポスターの第2版まではサツキとトトロが並んでいたのだが、第3版になって、以前のイメージに近いサツキでもメイでもない少女が描かれたそうです。
バス停で待っているのが少女1人でいいのかという問題がありましたが、宮崎監督は「サツキとメイの二人がトトロと並ぶのは、どうしても違う」と主張。その結果、二人の特徴を併せ持つ少女が描かれることになりました。
『となりのトトロ』の制作デスクを務めた木原浩勝さんは、著書で次のように述べています。
「ポスターの少女をサツキだと思っている人、メイだと思っている人がいると思うが、実のところどちらでもないといえるし、どちらでもあるともいえるキャラクターだ。つまり一種の合成キャラクターとでもいえばいいだろうか?具体的にいえばサツキより低くメイより高い身長。服装はサツキ。肩から上(顔立ちや傘の色)はメイとして決定される。映画に登場しないキャラクターを使ったポスター画など前代未聞だと思った」
■上映当時は「大ヒット作」ではなかった
1988年の上映時、『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の配給収入は合わせて5億8800万円と伸び悩みました。
上映当時には「ポスターの少女は誰?」という問い合わせがジブリに寄せられたことはなかったそうです。
上映当時のポスターの謎に注目が集まるのも、『となりのトトロ』が長寿作品になったからこそでした。